グッドパッチ様の採用サイトでは、動画生成AIを使った演出について、「ハリーポッターみたい!」など、SNSを中心に多くの好意的な反応をいただけました。
AIを使うとなると、簡単に同程度のものがポンっとできると思いがちです。しかし、動画生成AIの活用はそこまで簡単でもありませんでした。そこで本記事では、実際に動画生成AIを活用する中で、ツール選定の基準、クオリティを上げるための工夫、そしてAIと向き合う心構えなどを、学んだことをまとめて振り返ろうと思います。
グッドパッチ様の採用サイトでは、動画生成AIを使った演出について、「ハリーポッターみたい!」など、SNSを中心に多くの好意的な反応をいただけました。
AIを使うとなると、簡単に同程度のものがポンっとできると思いがちです。しかし、動画生成AIの活用はそこまで簡単でもありませんでした。そこで本記事では、実際に動画生成AIを活用する中で、ツール選定の基準、クオリティを上げるための工夫、そしてAIと向き合う心構えなどを、学んだことをまとめて振り返ろうと思います。
目次
採用サイトにおいて重要なのが「リアリティ」です。単にその会社の働き方や制度を伝えるだけでなく、その会社やそこで働く人や組織の雰囲気や空気感を伝えられるかどうかで、その会社に対する興味関心が大きく変わってきます。
転職に関する当社の独自調査でも、新しい会社の不安要素の上位に「人間関係」「社風」があげられています。求職者との初期段階で高確率で閲覧される採用サイトで、こうした不安を緩和できれば、求職者との関係は前進しやすくなるはずです。
そこで登場する選択肢が動画です。動画は、動き、表情、仕草、声などといった非言語情報の塊であり、何千字も尽くして説明をせずとも、その会社の雰囲気を一瞬で伝えることができます。
しかし、動画の活用には、障壁もあります。まず、撮影と編集の手間が、静止画と比べるとかなり高いです。また動画となると、被写体となる人物にある程度の演技を求めますが、採用サイトの被写体になるのは一般の社員であり、役者のような演技はできません。
そこから、「撮影した写真をベースにAIで動画化する」というアイデアに至りました。ただ、それと同時に、「AI Driven Design Company」を標榜するグッドパッチさんととしては、もともと生成AIを使いたいという意向がありました。このような合理的判断と、クライアント企業の意思によって、今回の企画は実現しました。
動画生成AIは複数存在したため、まずはどのツールを使うべきかの比較検証を行いました。
OpenAI社が提供するSoraなどの無料ツールや、Runway、KlingAIなどの有料ツールを比較しましたが、やはり生成クオリティには明確な差が出ました。実務レベルで「不自然な崩れ」を防ぐには、有料ツールの使用が前提ということが早い段階で分かりました。
その上で、有料ツールのRunwayとKlingAIが候補に絞り込まれましたが、この両者を比較した際、どちらも求めた水準は満たしていましたが、「顔の再現度」をはじめとしたニュアンスの品質で明確な違いが出ました。
これはおそらく、AIが学習しているデータが、西洋圏寄りかアジア圏寄りかによるものだと推測されます。今回採用しなかったRunwayでも、生成を繰り返すことで以下のような品質の動画を生成することができました。ただ、今回のように日本人の人物写真を扱う場合は、やはりアジア圏のAIツールの方が総合的に向いていると感じました。こうした理由から、今回はKlingAIを採用しました。

実際に制作を進めると、写真を読み込ませてプロンプトを書くだけで、すぐに望み通りのアウトプットが出てきたわけではありせんでした。
まず、意外な落とし穴だったのが画像の「色空間」です。 元画像の色空間規格がsRGB以外になっていると、AIが色を正しく認識できず、出力された動画の色味が変わってしまう現象が起きました。ベースにする写真データは必ずsRGBに変換しておくことが、品質担保の第一歩です。

生成設定は、始点(Start Frame)と終点(End Frame)の写真を指定する「Image to Video」形式で行いました。 ここで驚いたのは、「プロンプト(指示文)は短い方がうまくいく」という事実です。
実際に使用したプロンプトは以下のようなシンプルなものです。
The woman in the image makes gestures. The camera remains fixed. (画像の女性がジェスチャーをする。カメラは固定。)
良かれと思って「笑顔で」「手を右に振って」など長文で細かく指示を出すと、AIの解釈がブレてしまい、かえって動作が不自然になることがありました。 うまくいかない時は、プロンプトをこねくり回すよりも、「使用する画像の組み合わせ(始点と終点)」を変える方が解決につながりました。

また、AIに対する指示は、テキストよりも画像(視覚情報)の方が圧倒的に正確に伝わりました。
例えば、クライアントから「顔の二重顎が気になる」というフィードバックをもらったとします。これをプロンプトで「二重顎を消して」と指示しても、まず不可能です。 それよりも、元の写真をPhotoshop等でレタッチして二重顎を修正し、その綺麗な画像をAIに読み込ませる方が、確実かつ高品質な結果が得られます。

また、全身写真など、画面全体に対して人物のサイズが小さい場合、AIが顔のディテールを認識できず、顔が崩れた動画が生成される傾向にありました。
これを解決するために、以下のようなことを行いました。
トップページのファーストビューなどは、画面に対して背景が埋める面積が広いため、このように「部分的にAI動画を埋め込む」手法でクオリティを維持しています。

なお、AIに動きを任せると、どうしても似たようなジェスチャーが増えてしまい、表現が画一的になりがちです。 これを防ぐには、撮影段階からどんな動きにするかを想定しておく必要があります。例えば、 小道具(例えば、フランスパンを持たせるなど)を用意したり、動きが出やすいポーズを事前にパターン化しておいたりすることで、AI生成時のバリエーションを意図的に増やすことができます。逆に言えば、こうした事前の仕込みがないと、動画生成AIといえども単調な動画になってしまっていたでしょう。
実務で生成AIを使う以上、権利関係は避けて通れません。 AIツールごとに規約(商用利用の可否、アップロード画像が学習に使われるか等)はバラバラです。特に海外製ツールは国内法との兼ね合いも含めグレーな部分が残ります。 今回はウェブ上で一般公開する写真を使用するためにリスクは低いと判断しましたが、機密情報を含む画像などは安易にアップロードしないよう、厳密な確認が必要です。
機密性が高い情報を扱う場合には、クライアントに対しても、「どのAIツールを使うか」「リスクはどこにあるか」を事前に説明し、合意を得ておくことが不可欠です。また、今回は社員が撮影対象であったため、本人だからこそ感じる違和感が極力生まれないように、生成AIで作成した動画は全て本人確認を行いました。関係者全員への透明性の確保こそが、トラブル回避の第一歩となります。
また、ウェブサイトの一部として動画を実装する以上、アクセシビリティの観点も不可欠です。例えば停止ボタンの設置や、ファイル容量の管理などには、十分な注意が必要です。
こうしたことを踏まえても、動画生成AIの活用には様々なメリットがあります。特に感じたのは、突然発生した追加撮影にも速やかに対応できることでした。実際にこのプロジェクトでも追加の撮影が発生しましたが、写真撮影だけをおこない、翌日には生成AIで動画が確認できる状態になっていました。これは、通常の動画撮影では考えられないスピード感です。
最後に、本プロジェクトの動画担当として、私自身が感じた「生成AIとの向き合い方」について触れておきます。
2025年の初めごろは、私は「生成AIでデザイン業務を効率化するぞ!」と意気込み、生成AIを使ってデザインレビューや資料の要約を行っていました。しかし、そんな生成AI活用のモチベーションが、夏頃には失速してしまいました。 理由は、生成AIに「正解」を求めすぎていたからです。「思ったようなレビューが返ってこない」「結局自分で考えた方が早い」と感じ、期待とのギャップに疲れたことが原因でした。
潮目が変わったのは、実務とは関係のない「遊び」で生成AIを使い始めてからです。 パートナーの誕生日プレゼント用に、手描きのイラストを生成AIで3D風にして動かす「モーションポスター」を作ってみました。これが純粋に楽しく、夢中でトライ&エラーを繰り返しました。

結果として、その遊びの中で掴んだ「KlingAIの特性」や「画像の動かし方のコツ」が、今回のグッドパッチの採用サイトや、他の案件のメインビジュアル制作にそのまま活きました。
生成AI活用において大切なのは、「基礎スキル」を磨きつつ、生成AIを「遊び感覚」で触り続けることではないでしょうか。 「仕事でどう使うか」と堅苦しく考えすぎず、面白がって触っているうちに得た感覚こそが、いざという時に実務の難題を突破する鍵になるのだと、今回のプロジェクトを通じて実感しました。